2012年08月23日

しあわせ 小澤征良(日経MJより転載)

大変素晴らしい記事で、切り抜いて貼っておいたんですが、
なくなったら大変だと言うことでこちらで記載しておきます。

竹島や尖閣など頭が痛い問題が多い昨今ですが、
何を目指すべきかを考えたら、彼らを打ち負かすことではないはず。
僕自身もやっきになって、彼らと同じレベルで対抗していました。

そんなとき、壁に貼ってあるこのコラムを読んでハッとしました。
ぜひぜひ読んでみて下さい。

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 夕暮れ時、近所の富士山が見える場所まで一人歩いた。考え事をしたかった。よく愛犬と散歩した道━━今は私ひとりだ。

 日中は蒸し暑かったのに、木製のベンチに座っていると気持ちのよい風が吹き抜ける。道向こうには町の人が造っている小さな畑が集まっていて、緑がふと香ってくる。もう夏なのだ。夕陽色に染まりつつある空の下、車通りの少ないこの道だけ、居眠りしているように静かだ。大きな木々の葉っぱを風がさわさわと鳴らし、葉の波目を縫うように小鳥が鋭く三度鳴く。とても平和に一日が終わろうとしている。

 亡くなった動物や人がいるところって、こんなところかもしれないな。

 突如、そう思った。緑が香り、小鳥がさえずり、さらさらの木綿みたいな風が肌をやさしく撫でてゆく。辺りには自然のみが与えられる、ある種のしずけさと安らぎが満ち満ちてゆく。

 自然を敬い、自然と一体化して暮らすネイティブ・アメリカン・インディアンの言い伝えには「現代の世界は物質への強欲のためにバランスを失っており、このままでは世界は終わる」という予言があるらしい。物やお金などの物質が唯一の価値であるという価値観に囚われた我々こそが、世界のバランスを崩している、と。また予言では「灰のつまったひょうたん」も原爆投下として描かれていて驚いた。彼らの教えはとてもシンプルなものだ、という。

━━母なる大地を大切にすれば大地も貴女を大切にしてくれる。兄弟を大切にせよ。必要なものは取れ、しかし必要以上は取るな。持てる物を分かち合え。
 
 なにか親しみを感じると思ったら、そういえば、遠い昔、この日本もこんなだったのではなかろうか。自然を敬い、その美しさを守り、木や石にも魂を見いだし、愛おしみ尊ぶ。

 幸せは物を多く所有したり、他人と比べたりして得られるものではきっと無いんだろう。大切な誰かと笑えたり、空気や水をなんて美味しいんだろうと心から思えたり、きれいな海と戯れたり、大地が恵んでくれた新鮮な野菜を美味しく口にしたり・・・・・・そんな瞬間に幸せってあるのかな。自分にとって愛すべき誰か、あるいは何かとただただ一緒に居られること。分かち合えること。うっとりするような一瞬に、一緒に居られること。幸せって、もしかしてそういうものなんじゃないか。一人で座った夕暮れの時間はとても愛おしくて、ちょっと涙が出た。
sakuraishinya at 10:37



プロフィール

2004年から日本製工芸品オンラインストアの職人.comを運営しています。これまで134カ国・地域を旅しました(旅行記はこちら)。
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